Phil Jackson③

さて、フィル・ジャクソン・シリーズ第3弾。

禅マスターとか心理学者として呼び声が高いフィル・ジャクソン・コーチ。

彼が選手に遠征用に本を配るとか、Pom Pomと呼ばれるネイティブ・インディアンの儀式用の太鼓を使って祈祷をしたり、とかいう話はあまりにも有名です。

そういった有名な話ではなく、案外知られていない彼のコーチング・フィロソフィに少しでも迫りたいと思います。

彼は良く「スーパースターのいるチームでしか結果を残していない」と言われますが、それは間違いです。つい最近までコービー以外目立った選手のいなかったレイカーズを率いてプレイオフにも出ていますし、マイケル・ジョーダンがいなくあった後のブルズでも、カンファレンス・ファイナルまで進み、(彼が言うにはミスジャッジ)審判のコールが一つ無ければ、ピッペンはジョーダン抜きで優勝していただろうと言っています。

彼のコーチングはスーパースターを上手く扱うことに全てがあると思われている所がありますが、そうでもないようです。基本に非常に忠実であること、またNBAでは「アジャストが非常に上手いコーチだ」という評判があるそうです。前述したように98年のブルズで優勝した経験を持つスコット・バレル選手によると、ピボットやパスなどの基礎練習(高校とかでやっているような本当にごく基本的な物)を必ずやらされたのだとか。また「アジャスト」とは一試合試合が終わって、次の試合に前の試合でうまくいかなかった部分を修正することを言いますが、このアジャストには非常に長けていると。つまり、基本と戦術にかなり細かいコーチ、だということです。

もともとCBAでコーチしていた彼はこんな経験をしています。

当時のCBA(マイナーリーグで、現在のDリーグのように整備はされていなかったが、NBAに入る、入らないくらいの選手が数多くいて、シーズン中にピックアップされるなど、現在のDリーグの役割を果たしていた)は選手の賃金も同じでかなり条件が悪かったそうです。またチームプレイよりもNBAに入るために個人技に走ることが多く、バスケットボールの質も良くなかった。NBA出身のジャクソンからすれば、スカウトやコーチが求めているのはCBAで何点も取れる選手ではなく、NBAに来て、しっかりとチームプレイが出来る選手、”チーム”というコンセプトが理解出来ている選手だとわかっていたようです。

それはそうですよね。NBAで20点も30点も取れる選手なら最初からCBAにいないでしょうし、そこから上がる選手に求められるのは、ロール・プレイヤーとしてしっかりとディフェンスをしたり、オープンの人にパスを出したり、オープンシュートを決めることでしょうから。

とにかくジャクソン・コーチは「賃金が同じだから、プレータイムを同じにする」という前代未聞の方針を打ち出します。以前はNBAから降りてきた選手や得点力のある選手、特にガードの選手がすぐにシュートを打ってしまって、他の選手はスペースをとって観ているだけだったのを、ボールを共有させることによってチームプレイに目覚めさせた。それで結局CBA優勝を果たします。

この時、チームには平均何十点も取るスター選手がいたそうです。この選手のご機嫌を取るのではなく、「NBAに入るために必要なのは点を取るだけではなく、チームプレイをすることだ」という持論を押し通したそうです。結局この選手は他のチームに移籍。この年の得点王になりますが、NBAに呼ばれたのはジャクソン・コーチのチームにいた同じポジションの選手だったそうです。

このように、彼はスター選手に迎合するだけではなく、基本やチームプレイを大切にするコーチなのです。昔のブルズもレイカーズも、セカンドユニット(スタメンではないベンチプレイヤーによって構成されるチーム)が活躍し、得点差を縮めたり、リードを伸ばしたりすることが多いのはこういった基本に忠実なためではないでしょうか?

この記事を書いた人

東頭 俊典

東頭 俊典

バスケットボールコーチ。 北海道出身。
現在はアースフレンズ東京Zヘッドコーチ