みなさん、こんにちは。いつもありがとうございます。
今日は大阪エヴェッサ時代に活用してみたドリブル・ドライブ・モーションについて。
この採用に当たっての理由は3つありました。
① ペイントエリアをアタックすることを最重要視したオフェンスであること。
*オフェンスのまとめ③参照
日立サンロッカーズ時代の数値分析でペイントエリアでの得点と勝敗の相関関係がはっきり見えてきた自分はこの部分に特化してチームを作りたかった、その時にこのオフェンスに出会った、というのが大きな理由の一つになります。ここまでペイントアタックを中心にデザインされたオフェンスは自分の知る限りシンプルなポストアタックを起点としてインサイドにボールを集める「パワーバスケット」しか知りませんし、それは日本人の特性を考えても難しい。ならばスピードのあるガードが切っていく、というスタイルを確立しないとペイントエリアで打開はできないかと思いました。
② 日本代表を終えた後、最大の課題はペイント内の得点力のアップだったこと。
代表で活動していく中で、結局は最大の課題はペイント内の得点力アップでした。ペイント内の得点レパートリーを増やさない限り、絶対に国際大会では勝てない。どんなにきれいに組み立てても最後ゴール下のシュートを決めれなければ、意味がない。接戦に弱くなる。このことからどうしても挑戦したい、というのがありました。
③ シンプルなオフェンスなため、導入は難しくなく、準備期間が開幕まで3週間しかない、という日程的制限にも応えらえるオフェンスだったため。
これはそのままです。与えられた時間で考えると、理にかなった選択だったと今でも思っています。
一方で採用に当たっての不安は同様に3つありました。
① このオフェンスが自分のこれまで学んできたバスケットボールと対極の部分があること(パッシングの強調が少なく、ドライブが起きなければディフェンスをずらす効果的なパスが起きにくい)。
② 全ての選手がこのオフェンスが未経験だったこと。日本人選手はこのオフェンスを知らなかったこと。
③ 日本人選手にとってはもともとこのオフェンスの一番大事な部分、ペイントのアタックスキルが難しい課題となっている部分であったこと。決して選手の長所を生かしたオフェンスではないこと。むしろ不得意なことを強調することになること。
<不安要素への対応>
不安要素へは3つの対応策を考えました。
① このオフェンスにあった外国人選手を連れてくること。
ケビン・ギャロウェイ選手という長身のガードでドライブとアシストを得意とするガードと契約をしました。彼を起点としてアグレッシブなチームを作る、という狙いと、日本人選手に彼のドライブスキルを学んでもらう狙いがありました。また彼はフィニッシャーではないため、日本人のガード、フォワード陣も攻撃に参加しなくてはならず、彼らの成長のチャンスも創出できる、と考えました。攻撃的でありながらもアンセルフィッシュなバスケットボールを展開できるのではないか、と。実際、1年目は仲村直人選手と菅原洋介選手はシーズンを通して2桁近くの得点を取る活躍をしてくれましたし、そこに呉屋貴教選手が乗ってくればオフェンスとしては面白いと考えました。フィニッシャーにはスキルはなくても強さのあるビッグマンを選出、ザック・アンドリュース選手やディリオン・スニード選手と契約をしました。
② このオフェンス以外の”システム”オフェンスを持つこと。
ドリブル・ドライブ・モーションだけでは手詰まりになること、ボールの動きが止まること、また接戦の試合の終盤などコントロールが必要な時に不安なので、セットオフェンスだけでなく、立ち位置だけを決めて、あとはディフェンスに対応するシステムオフェンスを導入することにしました。
③ 日本人選手を従来のグループシューティングなどでなく、少人数制のワークアウト方式をとること。
日本人の選手は得てしてドリルはできるが、対応ができない、等のサイクルに陥りやすいため、3〜4人で自分がダミーディフェンスをしたりしながら試合により近い状況で行うワークアウトを導入。こうすることで、「日本人が苦手とするペイントアタック」、「ドリブルドライブ」を向上させることができると考えました。
<ドリブル・ドライブ・モーションの採用の結果(私見)>
結果、非常に面白い時間帯、エキサイティングなバスケットボールが見られることもあったものの、ボールが止まってドリブルばかりになって、苦しい展開になる時間帯も多く見られることになりました。
相手がドライブを警戒して極端に下がられた場合、どうしてもアウトサイドのシュートが多くなるか、ドリブルが多くなってしまいます。外だけをパスが回ってもペイント内に侵入できないため、ディフェンスを動かすことができなくなったりもします。デメリットとしては以下の通りです。
①オフェンスが単調になりやすいこと。
ペイントまで入れている時は比較的良いですが、下がられると選択肢を増やす必要があります。もしくはシューターに外から攻めさせる、という選択になりますが、それでもそのシューターだけを絞られれば厳しい状況にはなります。
②ペイントの競り合いが多くなるため、メインのアタッカーの消耗が激しいこと。また試合終盤にも競り合いが多く起きるので審判が試合の結果に影響を与えるシチュエーションが増えること。
基本がペイントのアタックを最優先としているため、どうしても体の当たり合いが多くなります。そのためアタッカー(ギャロウェイ選手)の負担や肉体的消耗が大きいこと、またどうしても審判のジャッジの影響を大きく受けます。またボールマンにはドライブから激しくぶつかっていくことを求めていたので、「自分からぶつかっているため」激しい接触があってもファウルではない、とジャッジされることも多くありました。また1試合を通じてアタックするため、終盤にはその当たり合いが当たり前、という認識になるような心理的な部分もあったのではないかと思います。結果としては、アタッカーが再三のアタックでペイントにボールをせっかく入れても得点が伸びず、ヘルプも寄せられない、というゲーム展開も経験しました。ラッセル・ウエストブルックなどあのアタックを1試合通して続けられる、という驚異的な体力を持った選手はやはりとんでもない、ということは自分は身をもってわかるようになった気がします。
一方でメリットは以下のように考えています。
①ボーナスシチュエーションや試合の局面(マッチアップや相手のチームとの力差等)によっては非常に抑えるのが難しいオフェンスであること。
小細工なしの真っ向勝負なので、押している時は手がつけられなくなる時もあります。集まった選手次第では止めるのが非常に難しいオフェンスであることは間違いないです。(現在もケンタッキー大やNBAのチームで多く使われる理由の一つです)
②導入が簡単なので、オフェンスのシステムの一つとして持つことは可能なこと。
実際にこうして「オフェンスのパターンの一つ」として使用しているチームがNBAにもNCAAにも多く見られます。一時期流行ったプリンストンオフェンスやトライアングルオフェンスと同じで、メインオフェンスにしなくてもこのオフェンスを使う時間帯はある、といった使い方が可能です。
③このオフェンスで必要なスキルの幾つかはどんなオフェンスでも採用可能なこと。
求められるのは1ON1のスキルとフィニッシュのスキルですからどんなオフェンスをしてもこのオフェンスで強調したり、強化したスキルはどんなオフェンスでも使うことができます。今トヨタ自動車では全く違うオフェンスをしていますが、教えているワークアウトなどの多くはエヴェッサでやり始めたものをより細分化、具体化してスキルレベルまでに落とし込んだものがほとんどです。オンボールスクリーンが多いオフェンスをしている今もエヴェッサで教えていたワークアウトは使えています。
結論としてはこのオフェンスを使うとしたらおそらく全ポゼッションの20%程度が望ましいと今は考えています。圧倒的に力の差がある場合や絶対的なドライバーがいる場合は良いオフェンスです。ですが、年間50試合を超えるシーズンで少人数のドライブに毎試合毎ポゼッション頼るのは相当な負担を強いることになります。よって、ドリブル・ドライブ・モーションと並行して使用出来るシステム・オフェンスは絶対に必要になるかと思います。ですが、このオフェンスに必要な要素、つまりドライブのスキルとフィニッシュのスキルは絶対に必要なスキルです。どんなバスケットをしてもそれをなしにはやはり勝つことは難しい。特に長身選手が多くいないチームとなればペリメタープレイヤーのドライブスキルとフィニッシュのスキルが最重要なスキルとなるはずです。
では今自分がどんなオフェンスを模索しているか、そんなところを次回は触れていきたいと思います。