Rick Majerus

ドリームチームIIのアシスタントコーチも務めていたコーチで、ESPNというアメリカのスポーツ専門チャンネルの投票で、「全米で最も戦術・戦略に詳しいコーチ」に選ばれたこともあるコーチがマジェラスコーチです。これはNBAコーチを含めてのこと。モルモン教徒や白人選手が多いユタ大学を1998年のNCAA決勝まで導いた名将です。モルモン教徒は、「ミッション」と呼ばれる2年間の布教活動を海外で行うことがあり、大学1年生の有望選手でNBA行きも噂されるような選手が、翌年からいきなりミッションで海外に出てしまうようなこともよくあるようです。このように選手の育成には難しさもある大学を強豪に育て上げました。2004年、健康上の理由でシーズン途中に現場を離れて解説などの仕事をしていましたが、現場復帰し、現在はセントルイス大学でヘッドコーチをしています。

華々しいコーチとしてのキャリアを持つ彼は、見た目は他のバスケットボールコーチとは随分違います。身長は175cmちょっと、体重は100kgでは済まないほどの巨漢なんです。

With Rick Majerus

自身、選手としては大学でウォークオン(練習生)をしただけで、大きな実績は無いそう。でも、バスケットを本当に深く愛し、誰よりも努力してきたコーチで、今でも車のトランクにはバスケットボールとシューズ、ショーツなどが常備されていて、チャンスがあればどこでもプレイするという根っからのバスケットボール好きなのだそうです。自称「Rick the Pick」と呼ばれる、誰も抜けられない完璧なスクリーンをかけるのが得意だとか。選手として、実績の無い点では自分自身とすごく被る所が多い人で、バスケットボールが本当に好きなのだ、と彼の本を読んでいて感じました。

キース・バンホーン(2006年までダラス・マーべリックスでプレイ)、マイケル・ドリアック(2008年までミネソタ・ティンバーウルブスでプレイ)、アンドリュー・ボーガット(現ミルウォーキー・バックス)といったビックマンらの育成で有名なコーチですが、アンドレ・ミラー(現ポートランド・トレイルブレイザーズ)やアレックス・ジェンセン(現セントルイス大学アシスタントコーチ)など、他のポジションでも”いぶし銀”な玄人好みの選手をたくさん育てています。非常に厳しい、タフなコーチで、彼のチームのディフェンスは鉄壁と言われていました。

大学の時、初めて観た試合では、非常に衝撃を受けました。よく「アメリカのバスケ」と言いますが、アメリカにも白人だけのチームもあれば、黒人だけのチームもあるし、走るチームもあれば、走らないチームもあり、マンツーのチームもあれば、一試合通してずっとチェンジングでプレイしているチームもあります。大学のチームを観ればそれこそ千差万別。様々なバスケットボールが存在します。その中で彼のチームは基本に忠実で、選手の能力を最大限に引き出していました。アジアであれくらいタフにフィジカルにプレイできて、基本に忠実なチームが作れれば、日本も活躍できるのではないかと当時は思ったものです。

彼が教えていたユタ大学の良さは、ディフェンスとリバウンドが強力であること。またその基本の上に、マジェラスコーチの戦術が加わり、非常に魅力的なチームになっていたことがあげられます。1998年のNCAAトーナメントでは、97年に全米優勝した、マイク・ビビィ率いるアリゾナ大学に、「トライアングル&2」のディフェンスを敷き、見事勝利しました。ガードの得点能力の高かった当時のアリゾナ大学のオフェンスリズムを完全に狂わせての圧勝でした。

ウォリアーズのヘッドコーチ、ドン・ネルソンやナゲッツのヘッドコーチ、ジョージ・カールなどと仲が良く、戦術・戦略などをよく共有しているそうです。セントルイス大学もまたきっと強くなっていくのだと思います。基本に忠実で、アシスタントコーチの育て方なども非常に参考になるコーチでした。