世界と日本でのユース世代での違い

みなさん、こんにちは。
今日もユース世代についての話題ですが、割と『するどく』切り込んでいきたいと思います。

海外のユース事情について

オリンピアコスのユースアカデミーには「BELIEVE IN YOUR DREAMS」という大きなサインが掲げられている

まず海外のU16やU18のプログラムの内容についてお話したいと思います。
2年前に行かせてもらったユーロリーグ所属のギリシャのオリンピアコスでもそうでしたが、基本的には『世界ではユースチームは、オフェンスに関してはトップチームと同じスキームでシンプルなバージョンを練習している』ことが多いようです。ドイツのU16のナショナルチームと試合をしてそこの関係者の方にインタビューした時も同じことを言っていました。このようにオフェンスについては、プロと同じように考え方やスペーシングだったりのアクションを模倣して、練習しています。(もちろんかなりシンプルなバージョンのみの踏襲となっていますが)

一方で、自分はオリンピアコスのユースディレクターに習ったアンダー世代のディフェンスの教え方がとても面白いと思っています。『ディフェンスはトップチームを模倣するのではなく全てやる』というのがオリンピアコスのユースの育成法だそうです。全てやるとはどういうことか?というと、もう本当に”全て”やる。スクリーンの守り方とかピックアンドロールの守り方について練習するとしたら、そこで考えられる守り方は全てやる、ということだそうです。

オリンピアコスのユースディレクターへのインタビュー(2018年)

「それって現実的に考えて出来ないんじゃないですか?」と聞いてみたところ、「ユース時代の目的はできるできないではなく、やったことがあるかないか、それを知っているかということが大切なんだよ。その子がトップチームに行った時に方法論そのものを知らないとついていけないからね。我々ユースコーチの仕事はどれだけ多くの選手を1部でも2部でもいいからヨーロッパ各地のプロリーグに送り込むことだからね。」という答えが返ってきて、本当に今に至るまで色々と考えさせられています。

日本と海外のユースでのコーチングの比較

では日本ではどうなのか?
以前宇都宮ブレックスにいたシレイカコーチ(リトアニア代表を率いてオリンピックで銅メダルを取得したことがある)や、現日本代表HCのラマスコーチもそうですし、海外のコーチが日本のチームに来た時には、やはり『選手が何を知っていて、何を経験しているか』、ここの違いが原因でなかなか思った様に進まない面もある様です。トヨタ自動車アンテロープスのHCで現スペイン代表HCのルーカスコーチもそうなのかも知れません。女子のアンテロープスのバスケットは非常に面白い。特にエンドオブザゲームがすごく面白い。オールスイッチしてみたり、羽田ヴィッキーズの本橋選手に対してボックス&ワンを仕掛けてみたり、トライアングル&ツーを仕掛けてみたり…。
それを普段そこまで練習していなくてもポンっとやってしまうんですよね。シレイカコーチの時にも同じようなことがあったらしいのですが、教わったことがないから「じゃあ、ここはどうやって守るんですか?」という質問がどんどん出てきて、「お前たちはやったことがないのか?」となり、残念ながらそこで温度差がうまれてしまうこともあったとか。。。

多分先ほどご紹介した様に、そういう戦術をユース時代に『やったことがあるヨーロッパ』と『(全部は)やったことがない日本』の差がそこで出てしまっているのではないか、と。そこでギリシャのオリンピアコスの『この年代(ユースの年代)では出来る、出来ないではなく、やったことがある、というのが大切なんだ』という教えがここで大きな意味や違いを生み出しているのではないか、と感じています。


そこで東京Zでは去年、そういった戦術をたくさんやってみよう、ということで練習を早くから始め、極力シンプルな物を採用してみました(アンテロープスと全く同じプレスオフェンスもあり、アンテロープスの人に練習量を聞きましたが、Zと同じくらい、とのことで笑)。少なくはしたものの、やはり『やりきれなかった』というのが実際の感想で、色々な要素はありましたが、やはり若い世代からのそうした戦術的な積み立てや貯金は欲しいものだ、と強く感じました。

具体的にユースチームでどういうことをやろうとしているのかと言うと、フレアスクリーンに対してこう守るという例が4種類あったとしたら4種類全部をやってみる。得意不得意もあるとは思いますが、トップチームに将来入るためにそれができる選手を選抜してやっているのがU16やU18です。ただうまい選手を獲っているのではなく、トップチームにいけるという前提で選手をセレクションしています。だからサイズの大きい選手が当然多くなるし、と言って小さい選手を排除するのか?というとそういう訳ではなく、小さい選手でもその時点でものすごいスピードがあったりとかシュートセンスやパスセンスがあるとか、ディフェンスができる、リーダーシップがすごくあるとか…そういう選手はもちろん選ばれます。16歳くらいで160~170cmを10人選考した中に2人ビッグマンがいる、とかではなく、本当に光るものをもっている2人だけが最終的には残れて、のんびりしていても大きい選手は優先してセレクションされるというのが世界的な考え方です。だから国民の平均身長が日本と同じとされるアルゼンチンやスペインでも代表の平均身長が10cm近くも変わってしまう、という現象が起こるわけです。

そして前にも書いたようにユースチームではいろんなディフェンスを学ぶので、当然早い段階で『やったことがある』。となるし、「この選手についてる場合はタイトマンツーマンで絶対にボールを持たせないトライアングルツーをする」ということをトップチームに入る時点で既に知っている、やったことがある、というのが世界のレベルです。

ピックアンドロールに関して

あとは国によって違うのですが、たとえばピックアンドロールの導入について。
スペインでは15歳までに教えるのはスペーシングとカッティングと1対1だけ、16歳からはピックアンドロールについて教えているそうです。
ピックアンドロールについては、先日自分が開催したGBNセミナーに参加してくれた日本のプロ選手達にセミナー後インタビューしたんですが、イタリアのファブリチオコーチの回を見て、そこで話されていたことはプロ選手になってから初めて知った、と言うんですよね。海外では当たり前のように約16歳でそれを教わり始めているけれど、残念ながら日本では16歳の時点では、教わる環境がない。周りの高校がそういった戦術をしている訳でもないし、そのスキルセットをガイドラインとして教わっている訳ではないので、どうしてもトーナメントで勝つ方法を優先で考えることになります。他の国では既に学んでいるはずのファンダメンタルをプロに入ってから学ぶことになってしまうので、大きな違いが出てくるんですね。これは高校の指導者が悪い、とかそういうことではなく、『トップチームから逆算してその選手がトップチームで活躍するために必要なスキルを教えるのがユースコーチの仕事』という考え方と『今目の前にいるメンバーで創りうる最高のチームを創る』という考え方の違いだと思います。だからどちらが間違っている、ということではありません。ただ、そこには海外と明確な違いがあり、それによって選手の将来像が変わりうる、ということです。

世界と日本の違い、少しは感じていただけましたでしょうか?
ピックアンドロール等、詳しくはGBNセミナーのファブリチオさんの回をぜひそちらを見ていただくと、世界が16歳で教えていることがなんなのか、ということがお分かりいただけると思います。
近日中に動画が公開されるのでお楽しみに…!

(東頭コーチ談 スタッフ書)