オフェンスのまとめ⑥ 〜コーチングの壁〜

みなさん、こんにちは。

前回の投稿で「ドリブル・ドライブ・モーション」オフェンスを使ってみて自分なりに感じたことを書かせてもらいました。今回はオフェンスそのものよりも、自分がぶつかった壁について正直にお話をしたいと思います。

ドリブル・ドライブ・モーションの弱点を補うために必要なこととして用意した、他のシステムオフェンスの導入と個人技のレベルアップを想定よりうまく果たせなかった要因は以下の二つから来たと考えています。

①システムの教え方の理解が足りなかったこと。

システム自体はシンプルでしたが、当時の日本では見られない動きも多く、相手に守られるのは難しいものでした。うまくいった部分もありますが、セットオフェンスっぽくなってしまい、”システム”として定着できなかったのは、自分の知識の無さでした。自分の定義では「セットオフェンス」では選手はAからBへと決められたスポットに移動をします。基本的に幾つかディフェンスに対応された際のオプションはあるにせよ、読まれた時には対応されることもあります。一方で自分が「システム」と呼ぶオフェンスはディフェンスが対応してきても、こちらに複数のオプションがあるオフェンスで、一つのオプションがディフェンスによって守られても次々と違うオプションに淀みなく移行していけるオフェンスです。例えばウィングのエントリーができない場合は素早く他のパスオプションやドリブルハンドオフオプションに移行し、そのまま同じ、もしくは違うパターンのオフェンスに移行できるようなオフェンスのことです。この「システム」をうまく教え切ることができませんでした。準備期間云々よりは自分の力の無さだったと思っています。

②ワークアウトの組み立て方が不十分だったこと。

日本人には「読み」だったり、「相手との駆け引き」を教えることが課題だと常々感じていました。ちょっとでも実戦の状況に似た再現性の高い練習をした場合、選手は試合でも割と簡単にコツをつかんでどんどんとその動きを応用してプレーするようになります。そのためにはチームを半分に分けて行う「ポジション別シューティング」のようなドリルよりも選手3人からマックス4人くらいで行う「ワークアウト」の方が絶対に良い。NBAではチーム練習が短く、こうしたワークアウトが多い、と聞いていたので採用してみましたが、どうしてもルーティン化することができませんでした。ワークアウトをするにも自分がまだ体系化できていないので人にお願いできない部分もありましたし、何よりNBAスタイルのワークアウトをいくら人から聞いてもイメージができない。元NBAで働いていた人を招待したり、NBAをよく知る外国人のコーチを招聘して聞いてみても、実際にチームスケジュールに入れて行うくらいのレベルでの理解はできませんでした。これもまた完全な自分の勉強不足。トライはして試行錯誤したものの、どうしても自分の納得できる形にはできませんでした。エヴェッサはみんなよく練習していたので、選手が補ってくれた部分はあったものの、もっともっと伸びる選手たちだっただけにこの部分のスケジューリングの仕方、ワークアウトの組み込み方はトヨタに来てからも昨年ずっと悩んでいました。


ドリブル・ドライブ・モーションを使うにしてもオフェンスのメインではなく、一部で使う、という引き出しを得たこと、またペイントのアタックスキルが少し整理できたことは良かったですが、「システム」をきちんと教えられなかったことが大きな壁でした。ちょうどそんな時にドナルド・ベックコーチから一緒にトヨタ自動車アンテロープスでやらないか、という話をもらいました。

コーチベックは一昨年、トヨタ自動車アルバルクをNBL決勝まで導いたコーチで、男子では5年間指導をされました。彼が来てから日本の男子の「スクリーン」や「タフネス」の概念が変わった、と思っています。とにかくフィジカルにプレイするチームが増えてきた。またそれまで5、6人しか選手を起用しなかったチームも彼が来日してからは8人は使うようになりました。そのためゲームの強度が落ちづらくなりました。そして、コーチは何よりそれまでの日本にいたコーチが使うことがなかった”システム”を持っています。

 

本にまでなっているこのシステムは偶然にも自分が2010年の世界選手権を視察に行った時、当時のドイツ代表チームが使っているのと同じものでした。実はこの時、個人的にドイツ代表に注目していて、そのスクリーンの多さやフィジカルなプレイは日本人にとっても有効なプレイスタイルではないか、と思っていたのです。その時のドイツ代表のヘッドコーチとコーチベックが繋がりがあり、代表の多くのオフェンスと同じオフェンスを使っていた、という訳です。自分がシステムの指導に失敗して悩んでいる時に、日本で一番システムで有名なコーチから誘いを受けたこと、しかもその人のシステムは自分が世界選手権で見て衝撃を受けて学びたい、と思ったシステムだったこともあり、不思議な縁を感じたのを覚えています。一度デンソーでお世話になっていたこともあったので、違う女子のチームに行くことに迷いもありましたし、いろいろ考えました。が、デンソーの小嶋HCは「家族のことを考えなさい。デンソーは気にするな。君はプロなんだからオファーがあるなら受けなさい。それにトヨタ自動車のようなところから話をもらえるのであれば絶対に断ってはいけない」という熱いメッセージをくれたこともあり、女子の世界に戻ることにしたのです。

また、一度ヘッドコーチをしてみて、たくさんの疑問が湧いてきました。冒頭に記したこともそうです。WJBLのシーズンは3月には終わることもあり、シーズンが終わる前のアメリカやヨーロッパに勉強に行ける、というのも魅力的でした。自分としては男子、女子、学生、いろいろやってきましたが、まだ最終的にどこに行きたいかは定まっていません。でも、ヘッドコーチをするためにはシステムの勉強と、また先ほど述べたワークアウトを含んだスケジューリングなども含めて、かなりの勉強が必要で、もう少し時間を取ろう、と思ったのです。

昨年一年、コーチベックの下で学ばせてもらって、本当にたくさんのことを学びました。システムの教え方、練習の組み立て、グループシューティングやポジション別シューティングだけでも、十分効果は出る事も学びました。もちろんワークアウトの方が良いのですが、グループシューティングでも効果は上がります。思えば日立の時も小野さんは必ずチームシューティングやグループシューティングを行っていたので、ワークアウトにこだわり過ぎていた自分がなんと浅はかだったのかと恥ずかしくなりました。

またこのオフにNBAのユタ・ジャズに行かせてもらって、さらにスケジューリングやワークアウトの種類、またグループシューティングの作成方法など引き出しが格段に増えたことも大きいです。実際にNBAの練習を見てみて、コーチベックがいつも言う「練習の全てをゲームシチュエーションにする」という意味が昨年よりも深く理解できるようになりました。

ちょっと話が逸れてしまいましたが、次回は今システムで何を考えているか、を紹介したいと思います。

ではでは。