結果主義と過程主義②

過程主義を徹底して素晴らしい成績を収めたイチロー選手やジョン・ウドゥン・コーチ。

では結果主義で成績を残した人は何が違うのでしょうか?

今回結果主義の代表としてご紹介したいのが、御存知コーチKこと、デューク大学のマイク・シャシェフスキー・コーチです。シャシェフスキー・コーチは大学のコーチながら、北京五輪ではNBAのスター揃いのチームUSAを率い、米男子バスケットボールチームを世界の頂点に導きました。

大会前から、米バスケットボール協会やメディアから「バスケットボール界での世界最高という栄誉とプライドの奪還」を目標とされてきたチームUSAにとって、「金メダルよりも個々のベストを尽くすことが目標」などとは到底言える訳がありません。シャシェフスキー・コーチの意思がどうあれ、彼らの目標は「金メダル」だったのです。もちろんシャシェフスキー・コーチも「金メダルが目標」と言ってはばかりませんでした。

彼がチームUSAについて書いた「Gold Standard」では、様々な話が書かれていますが、今回はその中でモチベーションアップについて分析していきたいと思います。前回の投稿で、「結果主義は短期間のモチベーションアップには有効だが、モチベーションの持続に難がある」とご紹介させて頂きました。ではチームUSAはどのようにして3年もの長い間、モチベーションを持続できたのでしょうか?

シャシェフスキー・コーチが他のコーチと違うのはそのモチベーションアップの方法にあります。チームUSAでは、軍隊で実戦を経験した軍人が練習に訪れ、選手の前で話をしていたそうです。いかにも陸軍士官大学を卒業したシャシェフスキー・コーチらしいですが、そこで「国を代表とする誇りや責任感」について、話をしてもらったそうです。オリンピックに出るのも、戦争に行くのも、国を代表する、ということでは変わらない、と。国の代表として、命を落とすことも恐れない英雄から、国を代表する重み、またはその喜びを聞いていたそうです。

これだけではありません。ナイキや米バスケットボール協会にも一役買ってもらい、ニューヨークにチームUSAを祭った建物を作り、オリンピック前にチーム全員を招待しました。選手達は建物に入ると、自分のユニフォームが巨大なバナーとなってかけられていたり、自分の肖像画を観たり、木箱にバッシュとユニフォーム、そしてふたには金メダルがはめこめるようになっているオーダーメイドのスペシャルボックスをプレゼントされたそうです。

まだまだありますが、一番印象に残ったのが、準決勝のアルゼンチン戦の直前のミーティングで、相手チームのビデオではなく、一風変わったビデオを観せます。アメリカ国旗の上に、浮かび上がるグランド・キャニオンや自由の女神などのアメリカのシンボルを見せた後、準決勝までのチームUSAのハイライトを流したそうです。お互いが身体を張って助け合っているところやオフェンスでボールをシェアしているところ、ディフェンスで声を張り上げてコミュニケーションをしている所。(彼らがどれだけ大きな声でコミュニケーションをしていたかご覧になりましたか?能力ばかりが目立って見落とされがちですが、特にディフェンスでは彼らは他のどのチームよりもしっかりとコミュニケーションを取っていました。ディフェンスで一番多くターンオーバーを誘っていたのはその効果が大きいと思います。)

BGMはチームUSAのためだけに歌われた有名シンガーによるオリジナルソングだったそうです。このビデオはナイキによって作られ、アルゼンチンとの決戦前、プレイヤーとスタッフしか観ることが許されなかったようです。

このように、モチベーションの持続に難がある結果目標(=金メダル奪還)を達成すべく、シャシェフスキー・コーチはタイミング良く、モチベーションアップのビデオやイベントを用意していたのです。

建物を作ったり、ビデオを毎回作ることは部活動では出来ないかも知れませんが、一年に数回でも、「目をつぶってあのチームに勝った自分達を想像してごらん」とか、「インターハイ出場を決めた自分達を想像してごらん」とか、「インターハイに行くとこんな風景だよ」と前年のインターハイの会場の様子を取ったビデオを見せたりと、選手のモチベーションを持続するために参考に出来ることはあるのではないかな、と思います。

過程主義にせよ、結果主義にせよ、メリット・デメリットをよく理解し、使い分けることが成功へのカギとなるようです。