Motion Offenseとモーションオフェンス 

バスケットのコーチならば、一度は夢見るオフェンスは「モーションオフェンス」ではないでしょうか?選手達が個々の判断で自由に想像力を働かせながら動き、相手の裏をつくようなプレイでどんどんと得点を重ねる。観客も相手チームも、教えているコーチすら、次のオフェンスでどのような形で得点を取るかわからない、そんなわくわくするオフェンス。。。プレイしているプレイヤーや観ている者全てが楽しいだけではなく、相手チームからするとパターンの読めない、スカウティングが非常に難しいオフェンスです。相手チームと比較して、自チームにアドバンテージがある所をどんどん攻めていく変幻自在のオフェンス、それが私達が一般的に想像する「モーションオフェンス」ではないでしょうか?

日本では日立サンロッカーズの小野秀二ヘッドコーチが好んで使うオフェンスです。では本場アメリカで”一般的”に使われている「Motion Offense」とはどんなものなのでしょうか?アメリカで呼ばれる「Motion Offense」と日本で考えられている「モーションオフェンス」の違いを私なりの解釈で説明していきたいと思います。

Motion Offense=フリーランスオフェンスではない。

アメリカで一般的にMotion Offenseというと、日本で想像される「フリーなオフェンス」とはちょっとニュアンスが違うようです。ある程度のパターンは決められている。例えば、4アウト1インでガードポジションからウィングにパスがされた場合、ツーガードポジションの二人がヘルプサイドのウィングにスタッガードスクリーンをかける、などです。基本的な動きをある程度決めて教えているチームが多いようです。「それではセットオフェンスと変わらないではないか?」と思われるかも知れませんが、セットオフェンスとの違いは明確にあります。通常のセットオフェンスと違うのは、”選手個々がディフェンスの状況を読んで、パターンとは違った選択をすることが許されている”、という点と、”その後、オフェンスが止まらない”という点です。例えば、前述したスタッガードスクリーンのケースでは、その後もパターンにしたがって動いていればオフェンスは半永久的に継続していきます。また、パッサーの選手がスクリーンに行くフリをしてディフェンスの反対を読んでバスケットカットをしたりする、といった選択肢も許されています。ここでこの選手がボールを受けられず、オフェンスが崩れた場合は、すかさずポストにボールを入れてスペースを取ったり、ビッグマンがボールマンにオンボールスクリーンに来て、オフェンスが止まることが無いようにしている、という訳です。

基本的には以下のような3種類がアメリカで多く観られる「Motion Offense」のようです。

① パターンが決められていて、プレイが継続する。5人のうちの誰かがパターンを崩した場合、シンプルなプレイで終わる: 基本的には半永久的に続けられるようなシンプルなオフェンスになっていますが、選手はディフェンスに対応してパターン以外の選択をすることは認められています。もしパターンが崩れたら、そのままオンボールスクリーンが行われたり、アイソレーションから1ON1が起こったりするなど、シンプルなプレイで終わることが多いようです。

メリットは、簡単なパターンのため、教えやすく、完全フリーなオフェンスよりも選手もやりやすい。またパターンが決まっているがゆえに、どこを狙えば良いか、ということが明確になっている、という点があげられます。

② パターンは決まっているが、あらかじめ個々の選手がいくつかオプションを持っていて、ディフェンスの状況に応じてどのオプションを行使するか選択するタイプのオフェンス: このオフェンスでは例えばウィングがディナイされていたら、ドリブルシャローでディナイされているウィングとボールマンが入れ替わってそのままパターンオフェンスに入る、とか、逆サイドにボールを一旦展開して別のオプションに入るとか、パスやドリブルの方向、カットとスクリーンを選べる、など選手がいくつか選択肢を持っています。ある選手が選択したプレイが引き金となって、他のプレイヤーの動きも決まってくる、というようなオフェンスになります。このオフェンスでも、もしあるプレイヤーが選択肢にあるプレイ以外を選択したり、うまく回らなくなると、オンボールスクリーンやアイソレーションなどのプレイで終わることが多いようです。

選手が覚えるのに時間がかかる、というデメリットはありますが、選択肢がしっかりしているため、どういったディフェンスに対してどのような選択をするかが明確で、覚えてしまうと非常に効果的なオフェンスになる、というメリットがあります。

③ 選手が選択するほぼ全ての選択肢が決められているオフェンス: これは別名Optional Phaseと呼ばれるオフェンスで、②と基本的には同じで個々の選手が複数の選択肢を持っています。ただ、②との違いはその選択肢の多さと、ほぼ全ての選択肢に対してその次の5人の動きが決められており、アイソレーションやオンボールスクリーンなどで終わることが②よりも少ない点です。②と完全に区分けするよりも、②の洗練された形が③だと考えた方が良いかも知れません。選手はディフェンスの動きと、味方の選手がどのような選択をするかを見極めながら、自分の動きのオプションを決めて行きます。レイカーズのトライアングルオフェンスや、ここ数年日本でも話題になってきているプリンストンオフェンスが、Optional Phaseの最も洗練されたオフェンスで、覚えるのも難しい、と言われますが、相手のディフェンスにとっても守るのが非常に難しいオフェンスです。オプションが多いため、どこかにヤマをはって守るとツケを払わされるというような感じです。簡単に言うと、ガソルにダブルチームに行こうとすると誰かがすかさずバスケットにカットしたり、コービーにボールを持たせないようにするとすかさずバックカットなどに繋がる、といった感じです。日本でも数年前に佐藤久夫先生が率いる明成高校がOptional Phaseに近いオフェンスを使われていました。

覚えるのが(教えるのが)難しいというデメリットはありますが、一旦マスターすると相手を読んで自然にプレイができるようになり、ボールも自由に動きますし、コート上にいる5人のディフェンス一人一人が気を抜けない、もしくはオフェンスチームのベストプレイヤーだけに集中出来ない、というメリットがあります。

これらのオフェンスは「モーションオフェンス」ではないじゃないか、という声も聞こえてきそうですが、アメリカでMotion Offenseを教えるいくつかの高校・大学を回った経験と、アメリカの高校・大学でプレイ経験やスタッフ経験のある友人、アメリカ人コーチから実際に見聞きした中での解釈ではアメリカでMotion Offenseと言うと、「選手が選択肢を持っているかどうか」と「プレイに継続性があるかどうか」の二つが定義になっているようです。いわゆる一般的なセットプレイでは、どこにパスをして誰がどのように動くか、というのがほぼ決まっていて、選手に選択権がそこまで認められていないのと、あるオプションが終了したり、ディフェンスに守られたりするとオフェンスがそこで終了する。それに対し、Motion Offenseでは、選手はディフェンスの状況に合わせて、パターン以外の動きを選択する自由、もしくは1パターン以外の選択肢を最初から持っているのに加え、プレイに継続性があり、半永久的にプレイが続きます。またたとえパターンが崩れても、プレイヤーが何をして良いかわからずスタンディングになる、というようなことが無いようです。この定義からいくと、トライアングルオフェンスやプリンストンオフェンスも、パターンは決まっていても選手に選択の幅が許されている分、Motion Offenseの一つ、となる訳です。

この記事を書いた人

東頭 俊典

東頭 俊典

バスケットボールコーチ。 北海道出身。
現在はアースフレンズ東京Zヘッドコーチ