ジム・クレモンズ・コーチ ~感想~

さて、前回お話した経験豊富なジム・クレモンズ・コーチ(現ロスアンジェルス・レイカーズ・アシスタント・コーチ)に直接聞いた話や少しの時間でしたが、一緒に過ごせて感じたことをシェアしていきたいと思います。(彼のプロフィールについては「ジム・クレモンズ・コーチ」を参照して下さい)

1.言葉の重み

通訳をやらせてもらって感じたことが、「言葉一つ一つに想いを込めて話している」ということ。例えば、皆に挨拶する時も、「バスケットボールというのは、個人個人の創造力をコート上で身体という道具を通して体現し、チームメイトと呼吸を合わせて、踊るようにコートを舞う、ダンスのような芸術なんだ」と言ったお話をされていました。一言、一言に深みがあり、シンプルな言葉で表現している中にすごく重みを感じました。彼が言う「芸術」という中には、それこそいろいろなニュアンスが込められている、というか。。。

自分のスキルを最大限に出す努力をする、チームメイトを信じ、周りと一体化してプレイする、更にチーム5人全員で相手チーム5人の裏をかき、阿吽の呼吸で相手から得点を奪っていく、5人が一体化した時の動きはもう芸術の領域なのだと。。。そんな気持ちが込められている気がしました。すごいと思ったことは、バスケットの楽しさや奥深さをシンプルな言葉で表現しきれるその表現力です。すごく言葉に重みや深さがあるな、と。この人はどこまで深い話をしているのだ、と、通訳をしながらどんどん引き込まれていくような感じでした。

2.リズム

バスケットボールはリズムだ、ということを強調されていました。特にトライアングル・オフェンスではリズムが大切なのだと。「1,2,3,4」、「1,2,3,4」と、観ている人に手拍子させて、コートでオフェンスをしている5人にタイミングを教えていたりしました。選手達はみるみる上達していったのでびっくりしました。特にトライアングル・オフェンスではこのリズムがお互い合わないと上手くいかないみたいです。自分で手拍子したり、周りの人に手拍子させたりするバスケットボールの指導法には初めて出会いました。

3.姿勢

クリニック前など、選手がシューティングをしていたらリバウンドをされていました。目についたのがそのリバウンドの仕方です。ボールが転がっていたら、素早く走ってボールを取りに行きます。そんな姿勢を観て、「コーチの鏡」だと感じました。彼は今年60歳になりました。それでも「選手をサポートする」という姿勢を体現していて、「今目の前にいる選手達に自分が何をすれば、上達を助けられるか」ということを常に考えているのでしょうね。海外ではアシスタントコーチは、リバウンドやパスをする時は常にダッシュでボールを追いかけ、全力のパスをするように心がけている方が多いです。60歳になった方であれほどの実績がある方でもそのようにしているのを観て、「これが本当のコーチだ」とむしょうに納得してしまいました。

4.「王国」について

昼休み、前回説明した1971-1972レイカーズ(69勝13敗)と、1995-1996のブルズ(72勝10敗)の共通点を聞くことが出来ました。その時クレモンズ・コーチがおっしゃっていたことが、「両チームともメンバー一人一人が自分の仕事を理解していた」ということです。

ベンチメンバーを含む一人一人が自分が何をすればチームに貢献できるかを常に考え、しっかりと実践していた、というんですね。別にチーム全員がいつも一緒にいるような仲良しこよしでも無く、チーム内に派閥というか、グループも当然存在はするが、いざ練習やゲームになると全員が一つのユニットとして、ハーモニーを奏でるように動いていた、と言うんです。一人一人が目立とうとか、そういうことではなく、それぞれの仕事をただ全うする「職人」的な境地というか。皆が平等でも無いし、プレイタイムに不満のある選手も当然いると。しかしその中でゲームが始まった時には皆が切り替えて、自分の「すべき仕事」をしっかりとこなす。それが強いチームなんだというようなお話をされていました。

日立時代に小野秀二さんも良く話されていました。「チームワークとは自分の仕事を全うすることだ」と。スタッフを含めて、チームに関わる全ての人間が自分にまかされた仕事や期待されている仕事、自分が出来ること(自分が”したいこと”とは必ずしも一致しない)を徹底的にやりぬく。それが「チームワーク」なんだと。クレモンズ・コーチも同じことを言われていました。

なんだか、当たり前のことばかり書いていますが、これだけの実績のある人が言うと当たり前ではないような。。。上手く表現出来ているでしょうか?

「コーチというのは大変な仕事なんだ。でも私はコーチが出来て幸せだ。バスケットボールが大好きだし、選手がどんどん上達していくのを観るのが楽しいんだ。」

そうおっしゃっていました。また日本に来てくれることを祈っています。